自分の慣れ親しんだ環境を手放し、新たな場所で生活を送るのはとても大変。異文化変容ストレスと呼ばれるこのストレスは、例外なく多かれ少なかれ移民の誰もが経験することでしょう。
しかし、自分自身の元々の考え方や傾向が、変化の過程に影響与え、適応の速度を加速させることもあれば、適応をより一層難しくしている場合もあります。
そこで今回取り上げたいのが、完璧主義。異文化で生活する移民の中には、「自分は完璧主義者だ」と自覚している人も多いのでは?
完璧主義だからこそ努力を惜しまず大変なことをやり遂げる方が多い一方で、完璧主義だからこそ、自分をとことん追い詰めて苦しい思いをしてしまっている人もいます。ただでさえ大変な異文化での生活に、完璧主義が相乗してしまうのは本当にしんどい。
そこでこの記事では、完璧主義が異文化適応にどのような影響を及ぼすか、異文化変容を少しでも楽にするために提案したい、完璧主義との上手な付き合い方を紹介してみたいと思います。
完璧主義と移民
異国の地で現地の人に混じりながら生活基盤を一から築いていった移民一世や、子供ながらに親の片腕を担っていた移民二世など、完璧主義傾向の持ち主は移民のバックグラウンドを持つ人に少なくはありません。
常に完璧を目指すゆえ、並々ならぬ努力をしていたり、大きな偉業を達成していたりと、High Achiever(目的を高く設定して達成している人)や社会的成功者にも多く、完璧主義は、自分を高めてくれるモチベーションとなるなど、決して悪いだけではない健康的な側面も持ち合わせています。まさに、アメリカンドリーマーはその典型と言えるでしょう。
しかし、完璧さを追求する過程で、自身に内在していく考え方や価値観が不健康に作用する時、完璧主義は、自身を追い詰め苦しめるものとなっていきます。
不健康な完璧主義とは?
完璧主義を研究しているサラ・レデェン博士らは、完璧主義の定義はズバリ、間違えや失敗をすることが受け入れられないことと説明しています。
完璧を目指すがために、高いパフォーマンス基準が設定され失敗への許容度が無くなっていく。
以下が、不健康な完璧主義が生み出す苦しさの例です:
極度に高い期待値や基準を作ってしまう。
失敗を極度に恐れてしまう。
幾度とない自己批判を行ってしまう。
失敗や自己批判を恐れるがために、それを回避するような行動に出ることをしてしまう。(例えば、ワーカホリックのように働き詰めになることも、逆に、先延ばし癖がついてしまうことも。)
性格の傾向として語られることの多い完璧主義ですが、一般的に『学習された』考え方から生まれている傾向であると説明することが出来、そこを読み解くことで対処法へのヒントが見えてきます。
完璧主義が生まれる背景
完璧主義になるにはどのような背景があるのでしょうか。
もちろん、個人の特性として極度なこだわりの延長に完璧主義が現れている場合もあるでしょう。
しかし、学習された考え方としての完璧主義を考えたとき、そこには、完璧を求めるような教育のあり方も大きく影響しており、日本をはじめ東アジア圏出身者には、失敗を許せないと考える完璧主義傾向の人は少なくはありません。一点の減点が合否を左右する受験システムや、数分の遅刻にもとても厳しい日本の社会性を振り返れば、それがなぜなのか想像するのは難しくないでしょう。
また、小さい頃から親のパートナー代わりとなって家族を支えてきたアダルトチルドレンの人の中には、自分がしでかした失敗や間違えが家族の様子や経済状況を大きく左右するなど常に大きなプレッシャーを感じる立場に置かれていたり、親の期待に応えられないことが親に失望されることと隣り合わせの中で生きていたりする場合も少なくありません。これは、異文化環境で親の片腕的存在を担いがちな移民2世の子たちにも通じています。
また、とても批判的であったり、大人の目線から子供のすることをジャッジするような子育てをする親に育てられた場合も、同じように、子供たちには失敗を恐れてしまいがちな傾向が植え付けられていきます。考えてみれば当然ですよね。
このように、個人が受けてきた教育や生育背景が完璧主義と繋がっていることは、完璧主義を語る上で特筆するべきポイントでしょう。
何かに取り組んだ時に失敗を極度に恐れる感覚というのは、考え方が極端に0か100に振れ動く感覚にとても近くなります。それは例えば、テストの点が98点だったときに、2点の減点が「たったの2点の減点」としてではなく、まるで「0点」の烙印を押されたように感じてしまうような、そんな白か黒かしかないような、一か八かのような感覚なのです。そして、出来なかった自分をこれでもかと責めてしまう。極端な例えに聞こえますが、一つの失敗が大きな罰則の感覚に繋がっていた幼少期を経た人が、このような感覚を内在してしまうのは当然のことです。
異文化適応と完璧主義
完璧主義者にとって、異文化適応はとにかく大変です。
なぜなら、慣れない環境で、時には誰も助けてくれる人がおらず言葉や慣習もシステムも違うところで生活を送る中で失敗を経験しないことは、正直な話、無理だからです。
失敗を恐れる感覚が強くある中で、失敗をしてしまったとき。そこには、とてつもない自己批判の嵐が待っています。
状況的にどうしても失敗がつきもののの異文化生活で、失敗がある度に自己批判の嵐が起きているとしたら、どれだけしんどいでしょうか?
そのような経験を繰り返すうちに、自己批判が起きるような状況を避けるように行動を制限してしまったり、逆に、必要以上の勉強や仕事を詰め込みまくってバーンアウトしてしまうことも起きてきます。
これら回避行動は、一時的な平安をもたらしてくれるものの、長期的には持続出来ません。続いたとしても、自己否定の感覚は抜けなかったり思い描く自分らしい生活が送れなかったり、むしろどんどん追い詰められていくでしょう。
そのため、このようなネガティブなパターンを作り出す『失敗を恐れる感覚』を少しでも和らげ回避の行動を減らしていくこと、つまり完璧主義を手放していくことが異文化生活をちょっとでも楽にしていくヒントになるのです。
完璧主義を手放すには?
それでは完璧主義を手放すには、何が必要なのでしょうか?ぜひ、以下を試してみてください。
1)失敗をすることが当たり前だと思うこと。
この世の中誰も、失敗を経験しないで生きてきた人はいません。失敗は誰もがどこかで必ず経験する「人間らしさ」であると自分自身に言い聞かせること。この考えを頭の片隅に置きながら、敢えて失敗して当然の機会を作っていってもいいかもしれません。失敗してなんぼ、と失敗や間違えを犯すことに耐性をつけていくこと、これが何よりも大切です。
2)失敗したことを考えるよりも、この経験(失敗)を次どう活かせるかを考えてみる。
“転んだら石を掴んで立ち上がる”精神で、「どうして失敗してしまったのか」と過去を振り返るよりも、失敗から学んだことや、その失敗を踏まえて次はどうしたいのかを考えてみると、失敗したことに対する執着や、そこに付きまとう自身へのネガティブなイメージが少し和らぎます。
3)失敗したことに対して、そこまで自分を批判する必要があるのか客観的に振り返ってみる。
「なんでこんなことが出来なかったのか」「これだから自分は…」といった卑下や自己否定の言葉で貶されるほど自分の犯した間違えや失敗は、そこまでひどいことだったのだろうかを考えてみるといいでしょう。例えば、これが誰か仲のいいお友達が経験していることだったとしたら…、果たしてここまで酷い言葉をかけるだろうか?想像してみてください。
4)1~3を繰り返し、少しずつ失敗や間違えへの耐性をつけていくこと。
失敗や間違えがあったとしても大丈夫だった自分、なんとかなった自分、というものを実感していきましょう。失敗や間違えが許されなかった過去とは違い、間違えを犯したとしても、そこまで大事件は起きていないこと、案外周囲の人は優しく見守ってくれたな、という場面を増やしていくことで、間違えても安全を感じられるようになってきます。とにかく、失敗や間違えに慣れていくこと、そして間違っても大丈夫だった自分というのを確認していくことが大切です。
5)頑張っている自分を認める。
何も成果を出していなくても、思うような結果が出せなかったり上手くいかなかった自分がいたとしても、頑張っている自分は存在しているのです。成果や結果ではなくて、その頑張りの過程に対して目を向けていくことを意識してみてください。新しい環境で生活に試行錯誤しているだけでも、すごく頑張っています。そこを自分自身で認めて労っていくことがとても大切です。
まとめ
受けてきた教育や生育環境が考え方の形成に大きな影響を与えるため、完璧主義は日本をはじめ東アジア出身者にとても多い傾向であると言えます。
日本からアメリカにきた人の中には、アメリカの比較的おおらかで適当な感覚の文化に対して苛立ちを抱えてしまう人もいます。しかし完璧とは程遠いサービスを受けた時に、必要以上の苛立ちを感じている場合、もしかしたら自分自身にも必要以上に厳しい目を向けながら生きている可能性を疑ってみてもいいのかもしれません。
完璧主義者は人にも厳しいながらも、自分にはもっともっと厳しいのです。他人に感じる完璧でないことへの苛立ちはもしかしたら、自分がとても無理して頑張っていることの証拠かもしれません。
この記事が、完璧主義の傾向を持つ方の、お役に立てる部分が有れば幸いです。
尚、完璧主義傾向は、記事内でも説明した通り、個人の生育関係が強く影響を与えています。そのため、根本的な不健康な完璧主義からの脱却や状況の改善を目指すには、個人のカウンセリングで生育環境のトラウマを振り返っていく機会を設けることを強くお勧めします。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWA
関連記事:
参考:
Kemp. J. (2021). The ACT Workbook for Perfectionism: Build Your Best (Imperfect) Life Using Powerful Acceptance & Commitment Therapy and Self-Compassion Skills. New Harbinger Publications.
Comentarios