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執筆者の写真ヤス@BUNKAIWA

アメリカで心理カウンセラーになるには?資格取得までの道【カリフォルニア州の場合】



『心理士』と一言にいっても、日本の心理士とアメリカの心理士では、資格を取得するまでの過程が大きく異なるようです。


そこで今回の記事では、実際にアメリカで心理士資格を取得した筆者の、資格取得経験談を書いてみたいと思います。


ちなみに、この記事はアメリカ・カフォルニア州心理士資格の一つであるマリッジ・アンド・ファミリーセラピストの資格に基づいた経験を紹介していますが、カリフォルニア州公認のその他心理士資格も、条件に違いがあるものの全て、大学院を修了し、卒業後研修期間を経て資格試験に合格する、という同様の流れを辿って資格授与がされます。



資格取得までの道のりはとにかく長く辛い

資格取得までの大まかな流れ


カリフォルニア州で心理カウンセリングを提供するためには、心理専門職のライセンス(資格)を取る必要があります。それは、心理カウンセリングの大学院修士プログラムを卒業後、州資格管轄団体の規定する研修条件の元、研修時間を修め、2種類の州資格試験に合格することで得ることができます。


大学院について


マリッジ・アンド・ファミリーセラピストの大学院修士プログラムは一般的にフルタイムの学生で約2年~3年。プログラムによって、実習期間の長さが違ったり、卒業論文が無い学校もあります。わたしのプログラムは、卒業論文あり、1時間弱のケース事例プレゼンテーション発表、アートセラピストの必須科目も含むプログラムだったので、入学から卒業までに3年間、その間の実習時間も10ヶ月間、実務・スーパービジョン含め合計700時間ととても充実していました。


アソシエイト(旧・インターン)期について


卒業後、資格管轄団体に登録しアソシエイト(旧・インターン)としてクリニックなどに勤め研修を開始します。研修時間は一般的に約3000時間、SV(スーパーバイザー・先輩セラピスト兼指導者)の監督・ライセンスの元、指導を受けることになります。アソシエイトは、仮免資格のようなもので、資格を取得するまで毎年更新する必要があります。


スーパービジョンについて


スーパービジョンの種類は、個人・グループ(集団)とあり、最低でも週に1時間の個人スーパービジョン、もしくは2時間のグループスーパービジョンを受けることとなります。基本的に、1人でもクライアントをみた週があれば、スーパービジョンを同週中に受けなければその週の研修時間が一切カウントされません。週に10人以上のセッションをした場合は、追加でスーパービジョンを受ける必要があります。そして、それは研修先ごとに受ける必要があります。


スーパービジョンを受け続けなければならない最低週数も設けられており、それを達成するだけでも、最短でも卒業後1年半を要します。つまり最低でも卒業後1年半以上研修をしないと資格は取れないことになります。


わたしの場合、2年半ほど2箇所の研修先に通っており、しかも1つのクリニックは、グループセッションを2つと個人の合計5時間のスーパービジョンを受けなくてはならないところだったので、もう一つの研修先と合わせて毎週7時間のスーパービジョンを受けていました(多すぎた!)


研修時間の内訳


研修時間の3000時間には、実際に行わなければならない様々な実務やカウンセリング実習の時間が含まれるのですが、各項目によって最低達成時間や、カウント出来る上限が決まっているものなど、様々な規制があります。例えば、子供のカウンセリングやカップルのカウンセリングには、(わたしの時代では)最低500時間の達成時間が設定されており、一方で、ケースマネジメントや事務作業時間は、カウント出来る時間数が限られていたり。なので、わたしのようにスーパービジョンを毎週7時間受けていたとしても、その時間数が全てカウントされて早く3000時間を達成できるかというとそういう訳にはいきません。


3年以上がかりの資格取得者も多い


わたしの場合、アートセラピーの研修もしていたため、1年間DV関連のクリニックで働いた後、2年半ほど2箇所の研修先を掛け持ちし必須研修時間を達成しました。ただ、アートセラピーにも個別に1000時間の研修が必要だったので、州資格取得後もアートセラピーのために研修先に残り最終的に4000時間弱の研修をしました。


わたしの場合、1000時間超過した研修でしたが、それがなくても3年以上掛かりといったところでしょうか。研修生の中には、フルタイムの仕事と掛け持ちしながらとか、子育ての合間に、という人も多く、6年ほど掛けて3000時間の研修時間を達成される方も多いです。


研修期間の待遇はかなり悪い


ちなみに、保険会社が有資格者のセッションにのみ保険を適応することも少なくはないため、クリニックの経営的にスーパービジョンを必要とするアソシエイト(旧インターン)を雇えるところは限られており、激務の政府・行政管轄のクリニック、最低賃金程度の給料やボランティアベースの場所も多いです。中には、良質なトレーニング&スーパービジョンを提供する代わりにアソシエイトに研修費を要求するクリニックもあるくらいです。そのため、アソシエイトにとって、資格取得は喉から手が出るほど欲しい目標です。


資格取得試験について


全ての研修時間を終了し、必要書類を全て州管轄団体に提出しそれが認められて初めて、州の資格試験;4時間の臨床心理全般の試験(クリニカル試験)を受けることになります。法律・倫理の知識に加え、ケースマネジメントや危機介入に対する理解、心理理論や精神疾患への知識も全てここで試されるため、すでに実習で大分理解しているものの、かなりの復習と勉強が必要でした。


ちなみに、研修1年後の仮免資格更新の前に法律・倫理の試験を受験し合格しておく必要があります。この二つの試験に合格することで、晴れて心理士としてライセンス(資格)を取得することが出来ます。


こんな数年間にも及ぶ経験が集大成された大事なテストなのに、結果公表はとても呆気ない感じで、テストを終えると試験場でその場で合否が言い渡されます。わたしも試験部屋を出て、ドキドキで受付係の人から呼ばれるのを待ってました。自分の番になった時に、受付係のおばちゃんが表情を変えずに合否の紙を持ってたので「ダメだったかな〜」とがっくししてたら、ペンでCongratulations!と書いてある部分を指して、「You did this!(やったね!)」と笑顔で渡してくれて、もう脱力感というか非現実世界にいるような、現実と夢が混ざったような不思議な感覚を全身に感じました。


余談なのですが、わたしが試験合格した日、家に帰ってきたら夫がQUEEENのWe are the championsを大音量で流して出迎えてくれ、コンサートのフレディー・マーキュリー並みな勝者ポーズで帰宅したのはとても快感でした。今でもクイーンのこの曲を聴くとその時のことを鮮明に思い出します!



資格取得で終わりではない、心理士は一生勉強…

資格を取得して全てが終わりではありません。資格取得後は、2年ごとの更新、そしてその際に、36時間のCEUという生涯学習修了書(うち6時間は最新の法律・倫理のクラスの受講義務あり)を習得していなければなりません。


また、満足出来ないサービスを提供するのでは、すぐにクライアントは離れていきますしトラブルも起きてしまいます。アメリカの心理士の傾向として、州の資格が取れたから満足…ではなくて、サービス業と一緒で、自分の州資格に上乗せできる様々な専門資格や特技をさらに習得し専門性やスキルを磨いていくことで、自分をブランド化・細分化してクライアントを集めていきます。


わたしも、州資格以外にも、アートセラピーの専門資格に加え、その他いくつかの専門資格や修了書を取得・保持していますし、常に勉強を続けています。



アメリカの心理士はプロフェッショナルに仕事をしている

上記に述べたように、最低でも卒業後2年弱かかる長い研修期間を経て資格を取得するアメリカの心理士たち。資格を手に入れるところまでに到達する時点で、心理士になることに躊躇がある人ややる気のない人、向かない人は自然と淘汰されていきます。


わたしの周りにも、様々な理由から継続が不能になったり諦めてしまったり、別のキャリアに進むことを決めたりする仲間がいました。中には止むを得ない事情があった方も…。


また、日本の似非自称カウンセラーによく見受けられるような、自己欲求を満たしたくてカウンセラーになろうとするナルシスト傾向がある人なども、研修期間中にスーパーバイザーに滅多切りにされることで淘汰されたり、または改心したりして成長していきます。


また、アメリカでは訴訟に心理士がいろんな角度から巻き込まれることも起きるため、ほとんどの心理士は職責保険に加入しています。わたしもクライアントの起こした訴訟(雇用主との間のいざこざや、親権争い等)に、参考人として巻き込まれたこともあります。あと、カリフォルニア州の場合、子供の安全を守るための法律がとても厳しいのです。それもあり、法律・倫理に対する知識をしっかり持っていることは、臨床のため以外の理由からも、自分を守っていくためにもクライアントさんの権限を最大限厳守するためにも大切な要素となっています。


大変な思いをして得た資格だからこそ、この資格を持つことにプライドを持って仕事をしている心理士さんがとても多いのがわたしの印象です。そして、それを守るために、メンタルヘルスへの誤解が起きていないか厳しく社会の様子を監視し合っているし、資格団体のロビー活動も盛んです。


でもそもそも、人のためになりたい気持ちが強くてこの役職を目指した方が本当に多い職業です。そのため、共に支え合いながら成長できるようなコミュニティを作っていこうと、クライアントのため、社会のために何が出来るかを模索しようと協力し、切磋琢磨し成長を促す心掛けの雰囲気が業界全体にあることも常々感じています。



アメリカでも心理職は理解されないこともある、でもだからこそ必要なこととは

一つ特記しておきたいのが、アメリカでも心理カウンセリングに抵抗を持つ方は今でもたくさんいらっしゃいますし、保守的な州や地域で「わたしが心理士をしている」(しかもカリフォルニアから来た…)と説明するとあからさまに変人扱いしてくる人もいます(ヒッピーやニューエイジ系の印象を持たれる場合も多々、時にはカリフォルニア自体がそういうイメージを持たれていることも無きにしも非ず。)


メンタルヘルスは長い間、偏見を持って見られることの多かった分野。年配の方や、「クヨクヨしてないで嫌なことは忘れろ」的なマチズモの文化で育った男性や保守的なエリアの方などには、なかなか受け入れられるまでに時間がかかっているのは今でも見受けられることかと思います。


だからこそ、正しいメンタルヘルスの情報発信や、資格保持者の監視監督をしている資格管轄所の存在は大きく、広報も積極的です。業界全体が、利用者の不信を拭うための努力を全力でしているような意識があります。


加えて、研修生の研修期間の長さや試験の難しさと専門性、または研修生と有資格者に対する雇用側の待遇に雲泥の差があることがかなり認知されているため、有資格者に対して『心理の専門家』としての社会的なイメージがしっかり存在するように感じます。逆に、それなしに信頼を勝ち取っていくのはとても難しいのではないかと思います。というのも、自分が大学院生、研修生の頃と比べてどれだけ成長しているかが痛いくらい分かるからです。


おわりに

この記事では、具体的にアメリカのカウンセラー・心理士(カリフォルニア州の場合)がどのような経緯で資格取得をしてるのか書いてみました。


書いてみると、日本の臨床心理士や公認心理師とは大分違う仕組みなのかな…と思いました。でも、いざ説明しろ、ってなると、これぐらい長くややこしい説明になってしまうので、いつも省いてしまうのですよね…。笑


わたしは、大学院を出たばかりの頃は何も分からないひよっこで、研修で学んだことにとにかく大きな影響を受けました。その期間は本当に修行のようでしたが、充実した訓練やスーパービジョンの元、クライアントさんとの接し方など臨床についての技術や知識が学べたことはもちろんのこと、研修仲間や先輩達とのやりとりから学ぶ自分の限界や特権・偏見について、自分自身の人生との落とし前のつけ方、どういうセラピストになりたいか、どんなクライアントさんと関わっていきたいか、など、今、心理士としてとても大切にしている価値観を深く学べたのは長い研修期間があったから…と感じています。その中で、様々な境遇のクライアントさんに出会え学びの機会を与えられたことに対して、謙虚な気持ちを持つことを強く教えられたように感じますし、それが今でも勉強を続けて成長しようと思う原動力になっているように思います。


でも、大学院に入学する頃は、まさかこのような過酷な道を通るなんて全く想像していなかったですし、知ってたらこの道に進んでいたか…(ここはノーコメントで。)


今回は、過去のことも懐かしみながら、カリフォルニア州の心理士(マリッジ・アンド・ファミリーセラピスト)の資格についてを書いてみました。最後までお読みくださりありがとうございます。


*規定やルールは毎年若干変わっているので、詳しい資格情報は資格管轄所の公式サイトでご確認ください。


心理セラピスト・吉澤やすの

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