新型コロナウィルス感染症の予防対策であるロックダウンを始めて早2ヶ月目に突入。その間、わたしの勤務先クリニックも、子供クライアント達のセラピーを対面のセッションから、オンラインビデオチャットで行うテレセラピーに移行しました。
やはり子供によっては、明らかにオンラインでのセラピーが向かない子もいました。そのため、泣く泣く親と相談した結果断念するケースも多く、最初はどうなるかと思ったものの一ヶ月試行錯誤をしつつ気づいたことも。何よりもびっくりな発見は、小さな子供のセラピーがオンラインでも十分出来る!ということ。
そこで、この記事では、子供のセラピーをオンラインですることについて、どのようなアプローチが出来るのか、1ヶ月以上オンラインのテレセラピーを続けられた児童クライアント達を例に、上手くいったことや様々気づいたことを紹介してみたいと思います。
*この記事で紹介するのは年齢7歳〜12歳ぐらいの子たちのチャイルド個人セラピーを想定しています。なお、個人差があるので、あくまでもこれはわたしの実体験(20ケース程・危機介入や緊急を要する内容のものは無い)を元にした主観が中心の記事となっていることをご了承ください。
子供のオンラインセラピーの必要条件と向き不向きについて
まず初めに、オンラインセラピーは、コンピューターやスマートフォンを利用して行うため、インターネット環境や、タブレットやコンピューターなどのデバイスがクライアント家族の手元にあることが前提となります。そして、それを手伝ってくれる協力的な親や保護者が必要です。また、子供の親との関係によっては、プライベートに話せる環境があるか無いかも影響します。
そして、対面ではなくスクリーン上でのやりとりとなるため、ある程度、クライアント側が、セラピストに対して何かを伝えたい・コミュニケーションを取ろうとする意思を持っていないと難しいなというのが正直な感想です。
逆に、ある程度伝えたいことが伝わるような関係性を既に築いている、または築くことが出来そうな可能性が感じられるエンゲージ率の高い子供であれば、ある程度じっとしていられない子や、親の介助が必要な子でもセラピーは十分可能な気がします。
同じ空間にいながら行う対面のセラピーに比べて、このような前提条件が発生してしまう点は、オンラインセラピーの難点とも言えるかもしれません。しかし、これさえクリアすれば、対面セラピーと同じような効果が期待出来るように思いました。
以下に、具体的にどのような方法でセラピーが出来るのかまとめてみました。
言葉当てゲームなど、お互いにやり取りをしながら進めるタイプのゲームをする
紙とペンさえ手元にあれば出来るゲームの類。片方が言葉を考えてもう一方が僅かなヒントや含まれるアルファベットを頼りにその言葉を当てるハングマンゲームや、○×ゲームなどは、セッションのウォームアップ代わりに使うととても効果的です。
ハングマンゲームに関しては、その子が好きなスーパーヒーローや、将来なりたい職業、好きな事などクライアントが以前セラピストに話していた内容を敢えて選ぶと、正解の言葉が分かった時に喜ぶ子供がとても多いです。
「自分のことを覚えてくれている」感覚はそれだけでも、子供クライアントにとっては嬉しいことにもなります。また、子供クライアントがどんな言葉を選んだかによっては、そこからその子が今興味を持っている事柄についてを詳しく聞くきっかけも作れます。
また、スキャタゴリー(scattergories)は、事前にアルファベットが提示され、3分間表示されたカテゴリーに当てはまる、そのアルファベットを頭文字に持つ言葉を出来るだけ多く考えるゲームです。セラピストとの競争を通じて、適切なコミュニケーション方法や勝ち負けの悔しさや感情を消化する練習をするのにうってつけです。大人同士でやってもちょっと楽しいので、興味のある方はぜひこちらをどうぞ→スキャタゴリーをオンライン上で試したい方はこちらをどうぞ(紙とペンを用意してくださいね。)
YouTubeを一緒に見る
オンラインに親しんで成長した今の子供達にとって、YouTubeは情報の宝庫。子供のお勧めするユーチューバーの動画を一緒に見られるのもオンラインセラピーならでは。
対面セラピーだと、動画をスマートフォンで探す作業が面倒くさいし、セッションの流れを中断するような気がするのでスマートフォンは持ち出さなかったのですが、初めからオンラインにいるとセッションの流れを中断せずに簡単に動画を取り込めるのもオンラインセラピーの利点と言えるかもしれません。
心理教育にスライドショーを活用
Google Docからスライドショーを作り、それを子供達に見せながら心理教育を行うカウンセラーも。感情と行動のつながりや思考パターンを説明しながらカウンセリングをする認知行動療法などを得意とするセラピストなら、子供にもわかりやすい図解をスライドショーにする事でオンラインでもカウンセリングが可能に。
本を使ったセラピー・ビブリオセラピーをする
子供向け絵本の中には、その子達が辿った難しい試練や挑戦をストーリーに落とし込んだ、とてもセラピー的な本も存在します。
キャラクターがどのような気持ちの葛藤や模索を経るのか、自分の心を代弁する媒体として絵本がその役割を果たします。
セラピストが本を読み聞かせることも、本の読み聞かせアプリからぴったりのタイトルを探すことも、はたまたクライアント自身が読みたい本を朗読することからセラピーにつなげることも、オンライン上で問題なく出来ます。
パペットセラピーが出来る
元々、ぬいぐるみやフィギュア、レゴを使って物語を作るのが好きな子供にとって、オンラインはとても素晴らしい媒体なことに気がつきました。
子供クライアントにとって自分のぬいぐるみは愛着のある存在。既に名前をつけていたり、どんな特徴があるのかはっきり把握しているキャラクターたちを元に作る物語のストーリーは、セラピールームに用意されたおもちゃを使ってセッションするよりも深い洞察が得られます。
まるで、スクリーン先にいるわたしを観客のように見立て、ショーや演劇を展開するように、ぬいぐるみたちを動かしながらストーリーを作る子供達に正直びっくりしました。
ストーリーには子供達の心の経験が反映されている場合も多く、それを元に難しい感情を消化する介入をしていきます。大切な人を亡くしたグリーフを経験している子や、トラウマを抱えた子、そして自分の感情が上手く表現出来ない自閉症の子などがこのような形でオンラインセラピーをすることが出来ています。
正直、このタイプのセラピーが出来る子供は、外出禁止が解除されてもオンラインセラピーを提案しようかと思うくらい、オンラインの方が効果があるような気がしています。
アートセラピーをする
子供のセラピーのカウンセラーにとって、今大きく注目されているのがアートセラピー。アートセラピストとしてはとても嬉しいことに、アートセラピーはオンラインでも十分威力を発揮することが出来る媒体だと思います。
例えば、具体的なお題を提案して、子供クライアントにそれを描いてもらう。そしてそれを元に心情を整理するのに使ったり、その奥にある抑圧された感情を引き出すのに使ったり。
また、お互いに紙とぺんを用意して、同じ動物やキャラクターを描いて見せあうのも面白いアクティビティになります。同じテーマに対して、どれだけ描き方が違うのか、どんなところを注目しているのかなど話合うのは、自己中心になりがちな子供が他人の視野や意見について見解を広げるきっかけにもなります。
それに、お題無しのフリースタイルの絵からは、パペットショーと同じような、子供の気持ちが見える場合もあり、そこからセラピーをすることも可能です。なので、絵が好きで日常的に絵を描いている子には、セッション中に話しながら絵を描いてもらったり、今まで描いた絵を見せてもらうこともします。オンラインだと、子供達は自宅にいるので過去の作品を簡単に拝見できるのもとても便利だと思いました。
おわりに
新型コロナウィルス感染症への対策がきっかけとなって移行することになった子供のオンラインセラピー。
正直「子供のオンラインセラピーは難しい」と思い込んでいた節があったため、それが良い意味で挫かれたのは大きな発見になりました。
もちろん、最初に説明したように、年齢的、性格的にオンラインセラピーが向かない子供達もいます。それに、外出が極端に制限されている今だからこそ、セラピストとの関わりがいつも以上に大きな楽しみになっている子供もいるのかもしれません。
"Out of my comfort zone(許容範囲外)"と思い子供のセラピーを諦めたセラピストも多い中、このような新たなきっかけをくれ、一緒に挑戦してくれた子供クライアント達にとても感謝すると同時に、セラピストも時代に合わせて様々な介入方法を積極的に探る姿勢が求められているのかなと感じます。何よりも、外出が極端に制限されている前代未聞の今だからこそ、カンセリングを必要としている子供達は存在し、彼らにケアが行き届くことの大切さを実感します。
主観を中心にまとめましたが、この記事がオンラインセラピーを模索中の子供のセラピスト達、そして子供のセラピーを検討中の親御さんのもとに届いたら幸いです。
心理セラピストのヤスでした。
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