2015年公開当時、アメリカの心理カウンセラーたちの間でプチバズった映画『インサイド・ヘッド』
人の気持ちがどう機能しているのか、そして、それとどう向き合っていけば良いのか、今をしんどく生きる人に向けて、優しいメッセージが、ある一人の女の子の成長のストーリーと共に描かれています。
この映画、今のコロナ禍だからこそ見ておきたい!その理由を記事にまとめてみました。
映画のポイント
この映画は、一人の女の子ライリーの頭の中に巻き起こるドラマを説明している映画です。彼女の頭の中には、
・喜び(Joy)
・悲しみ(Sadness)
・怒り(Anger)
・恐れ(Fear)
・嫌悪(Disgust)
この五つの感情を司るそれぞれの司令官がおり、頭の持ち主であるライリーの経験していることを見ながら、その時の状況にどの気持ちが当てはまるのか操作をし、彼女の人生に色を付けていきます。
喜びを表すヨロコビは、彼女の中で一番最初に生まれた感情でもあり、大きな発言権を持っています。ヨロコビが一生懸命、彼女の頭の中で働き、他の気持ち達の出番をヨロコビに置き換えてしまうことで、ドラマが始まっていきます。
ヨロコビの存在
皆さんは、このような言葉を聞いたことはありませんか?
「悲しいことがあっても、いつまでもクヨクヨしてはいられない。」
「気持ちを切り替えてポジティブに。」
「嫌なことは我慢。」
こういったメッセージを聞いているうちに、わたしたちは、無意識のうちに、ハッピーでいなければ悪いことのような気分になったり、調子が悪い時や落ち込んでいる時でも無理してでも元気を作らなくてはならない、といったプレッシャーを掛けてしまったりしがちです。
このヨロコビがやってしまったことは、まさにそれ。
本当は悲しい場面でも、ムカつく場面でも、ヨロコビの気持ちを押し通してしまったことで、彼らの頭の持ち主であるライリーは、どんどん自分を苦しめて追い詰めてしまうのです。
感情は取りつくれない
感情は、人間にとって生活を豊かにするのに欠かせない存在です。
人間は、動物よりも弱い存在であるため、厳しい自然環境を乗り切るために共同体という仲間同士が協力しながら生きる社会を作って生き延びてきました。そして、人間の感情、特に『喜び』『悲しみ』『怒り』『恐れ』『嫌悪』といった大きな感情は、チームの結束を強め、敵や結束を乱す者を排除し、共同体を守っていくために、とても大切な機能を果たしていたのです。
感情は人間にとって本能的に備わった中核の機能です。人類の進歩にあわせ、人間の脳には、そこの中核部分を覆うように認知や論理の思考を司るエリアが発達しました。それにより、人は感情任せの衝動的な行動を制限し、常識的な活動をすることが可能になっています。
しかしこれはつまり、感情自体が湧き上がることを制限しているということではないのです。
その、本来であれば不可能なこと(感情自体が湧き上がることを制限しようとすること)が、現代社会のよく話される『良し』とされるメッセージであり、この映画『インサイド・ヘッド』で描かれている状況なのです。
感情を無視することの本当の怖さ
本当の感情を無視した先にあるのは、自分の中に巻き起こる相反する混乱した気持ちや圧倒感、そして、周囲に理解されない辛さや孤独感です。
自分の頭に起きていることが上手く説明できないと、人はとても混乱します。なんでか分からないけれど漠然としたモヤモヤが起きている状況。このモヤモヤが残っているため、何か行動をしたとしても、そのモヤモヤがはっきり見えない限りモヤモヤを効果的に解消することが難しくなります。それは、例えで言ったら、まるで便秘のように、そこに悪いものが留まっている感じでしょうか。解消されない何かがある限り、どんどん身体も苦しくなっていきます。
また、別の気持ちで隠してしまった本当の気持ちを他人はどう理解してあげることが出来るのでしょうか?本当は違う気持ちを持ちつつ、本来したいこととは別のことを行動で示されたら、相手は理解することが出来ません。
そのようなことが続くことで、他者と自分との間に溝が出来るような、共同体の結束が剥がれていくような、そんな恐怖と孤独を感じてしまう悪循環が起きる場合もあるのです。
感情を無視してはいけない
感情の放出を抑制することは出来ません。抑制できるのは、その感情を元にどういう行動を取るか、その行動に対してです。
誰かの発言に対して『怒り』の感情が湧いてきた時は、それをどう対処すれば良いのか?
『悲しい』出来事が起きた時は、どうそれを和らげることが出来るのか?
何かに『恐れ』が生まれた時は、どう安心を求めれば良いのか?
『嫌悪』の気持ちは自分に何を伝えているのか?
湧き上がった感情と向き合うことで、自分の人生を今よりも過ごしやすくするためのヒントが見つかります。感情自体を抑制し、それをなかったことにしハッピーに置き換えてしまうことは、感情と向き合うチャンスを台無しにしてしまうのです。
自分にとって何が必要なのか、そのきっかけを作ってくれるために様々な感情が存在します。大きな感情は、自分に何か不都合なことが起きていることを知らせてくれているサインかもしれません。ちょっと立ち止まって、その気持ちを気にかけ、優しく受け入れられた時、自分の人生をどうしていきたいのか、本当の自分の生きたい生き方を選択するきっかけが得られるのです。
おわりに
この映画が伝えたかった、どの感情も全て大切な感情というメッセージ。
アメリカのカウンセラーの間でプチバズったのは「これ、わたしたちがいつもクライアントさんに伝えようとしていることだ!!」と思った人が多かったのが大きいでしょう。
映画のメッセージは心理カウンセリングにも大きく通じることで、クライアントさんの感じるネガティブな気持ちを無かったことにしたり抑制したりすることは出来ず、カウンセリングでは、その気持ちにどう向き合い、そしてそれに対して、どう対処していくかを話していくことになります。
パニックアタックや何か大きな不安を抱えている方、鬱症状が出ている方など、実は本当の原因は、自分の感じている正直な気持ちを押し殺し無理しているが故に起きている場合もあります。
そこを紐解き、感じている気持ちを受け止めて、その上でそれを対処していく方法を話していく。そうすることで、抱えている心の苦しさが減っていきます。
「今、何かがしんどい」と思う方は、少し自分に正直になって、自分の感情に正面から向き合う機会を作ってみても良いかもしれません。そんなことを教えてくれるこの映画、皆さんもぜひ機会があったらみてみてくださいね。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWAのヤスでした。
参考:
ダニエル・シーゲル&ティナ・ペイン・ブライソン著
心理学の常識を変えたダニエル・シーゲル博士の代表作。感情がどのように脳内で処理されているのか、人間の愛着がどう形成されるのかなど、脳神経生物学的見地から感情を説明しています。子育て本としてではなく、心理学に関わる人全てに読んで欲しい素晴らしい本です。
おまけ:
同じ製作陣による2021年の新作映画『ソウルフルワールド(Soul)』もまた、今のストレスフルな時を生きるわたしたちが持っておきたい視点を紹介しているかわいい映画です。気になる方はこちらもぜひご覧ください↓
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