海外生活を終え、自国に帰国した移民が辿る逆カルチャーショック。
あまり語られることが多くないものの、意外にも、この逆カルチャーショックに苦しむ人は少なくありません。
浦島太郎がそうであったように、時を経て戻ってきた自分と、それを受け入れる周囲も、環境も、全てが自分の覚えているような形で残っている可能性はとても少ないのです。
戻ってきた移民に待っているのは、自分が覚えていた過去の姿の自国や帰国先ではなく、離れていた年月の分、変わっていった新たな環境。その環境に、自身が再適応することが求められます。その、全く予期していなかったショックな体験、それが逆カルチャーショックと呼ばれています。
そこでこの記事では、逆カルチャーショックの際に経験する、帰国後の移民が辿る自国(帰国先)への再適応の心の変化を解説したいと思います。
逆カルチャーショックの心の変化のステージ
文化変容の研究をされている文化コンサルタントのクレイグ・サトーティ氏は、帰国後の移民が辿る文化変容のステージは、逆カルチャーショックを含む、大きく分けて4つのステージがあると説明しています。
帰路期
ハネムーン期
逆カルチャーショック期
再適応期
帰路期(1)では、実際に海外生活を終え、自国(帰国先)に戻っていく時の状態。そして、ハネムーン期(2)は、帰国直後に経験する、一時帰国時のような過ごし方をする楽しい期間。ある程度、帰国を楽しみ尽くし数日間後から、個人の再適応への葛藤、逆カルチャーショック期(3)が始まっていきます。そして、その葛藤を経て、再適応期(4)へ。
サトーティ氏は、帰国に本人だけでなく家族が付随する場合、家族のメンバーそれぞれが、帰国に際してそれぞれに違う葛藤や感情を持っている場合があることを指摘しています。例えば、帰国が楽しみな親とは裏腹に、現地に残りたかった子供たち、など。
なので、全員が全員、同じ感覚・スピードでこれらのステージを辿るわけではないこと、それが前提に存在しています。
逆カルチャーショックが起きる要因とは?
異文化変容ストレスと同じように、逆カルチャーショックも個人差があります。その中でも、これらのような、逆カルチャーショックが起きやすい要因というのもいくつか存在します:
本帰国が自分の意思によるものでなかった場合
予定外の本帰国を余儀なくされた場合
年齢ーこの場合、人生の転換・変化期の経験が多い人に比べ、大な変化を迎えた経験が少ない比較的若い人の方がなりやすいようです。
今回が初めての本帰国の場合
海外在住経験が長く、現地への適応もかなり進んでいた場合
現地文化への露出が高く、現地コミュニティへも深く馴じんでいた場合
帰国先の環境が受け入れ態勢が整っていなかったりサポーティブでない場合
海外生活中の自文化への露出が少なかった場合
海外滞在先と自文化の文化や風習・習慣が大きく異なっている場合
もちろん、上記以外にも個人の性格や職業、家族の状況など様々な要因が絡み合っている上で適応度合いが変わってきます。
逆カルチャーショック時に経験する大きな感情とは?
逆カルチャーショックのつらいところは、個人の葛藤がなかなか周囲に理解されないことです。表面的には、自分の国・慣れ親しんだ文化に戻ってきただけに受けとられるものの、頭の中では様々な感情が渦巻いていることが指摘されています。例えば‥
批判の目:
自分の気持ちの中にふつふつと湧き上がる、自分の国・文化に対するジャッジするようなキツい視線。海外生活中は、まるで桃源郷のようだった自分の国が、戻ってきて現実を見てみると、なんとも味気ない、むしろダメダメな部分が目について仕方がない。そんな批判的なネガティブな気持ちを抱いてしまうのが、逆カルチャーショックにおいてとってもつらいところであると指摘されています。
この時に感じる、疎外感的な感覚は、社会的マイノリティの立場に置かれたような、社会に仲間がいないような孤独感や心細さを生み出します。
疑いの目:
思い描いていたような帰国とは違うがっかりした体験に、自分の帰国が本当に正しかったのかどうか疑い始めるのも、この逆カルチャーショックの時期です。
この疑いの目は、苛立ちの気持ちを生み出すだけではなく、本当に自分の決断が正しかったのか、自分の行動全てを疑いはじめ、本当はとるべきはずの次の行動に動くための決断力を鈍らせます。そして、途方にくれたような感覚に陥れてしまうことも。
とにかく圧倒される:
「新しい生活をここで新たにスタートするのだ!」という現実に、気持ちが圧倒されてしまうこともあります。
新たに生活する土台を再構築するのですから、それは生存本能を刺激されるような、極限のプレッシャーにもなります。そのような感覚が続いてしまうと、疲れやすくなり、結果的に身体的にも疲労感を感じやすくなるでしょう。そうなると、抵抗力も弱くなり、風邪を引きやすくなることも。
実際に、カルチャーショック&逆カルチャーショックは、身体的にもとても負担が強く、疲労感が強く、免疫力の低下も見られると指摘されています。
このような葛藤が心の中で渦巻いている状態で、周囲からはすぐに順応出来て当たり前だと思われる。このギャップに苦しむ帰国者は後を経ちません。この逆カルチャーショックステージから再適応ステージに進んでいけなかった時、自文化への反発心が強くなっていくことも、逆に海外逃避してしまうことも、または、塞ぎ込んで引きこもってしまうことも起きてしまう場合も。
再適応への道
新たな環境での生活に徐々になれる試行錯誤を経て少しずつ、自分の生活にリズムが戻ってきたような、状況をコントロール出来ているような感覚が戻ってきます。
また、自分の海外での体験を振り返り、自分自身を肯定出来る機会も増えていくでしょう。
そして、新たな環境で築く新たな人間関係や、自身の所属するコミュニティとの関わりややりとりを何度も経て、自分の居場所が見つかり、それが確実なものとなっていきます。再適応には、約6ヶ月ほどかかると言われているそうです。
おわりに
逆カルチャーショックは、海外に出発する人に向けて話されるカルチャーショックや異文化体験に比べ、スポットライトが当たる機会がとても少ないトピックです。
しかしながら、異なる文化や国を跨いだ変化が、全く簡単でスムーズにいくはずはなく、移民は新たな環境への適応を余儀なくされ、それに伴う異文化変容ストレスが発生することは至極当然の現象だということはもっと世間一般に知られる必要があるように感じます。
逆カルチャーショックのとてもつらいところは、なんと言っても、周囲からの理解が圧倒的に少ないこと。帰国を喜ぶ実家の家族や友人の気持ちとは裏腹に、滞在先を懐かしむことも別れを惜しむ気持ちもなかなか話せないことも多いでしょうし、ポロっと言ってしまった、「〇〇では、こうなのに‥」という発言が、帰国先で大きな顰蹙(ヒンシュク)を買って誤解されてしまうこともあるかもしれません。
逆カルチャーショック期に起きた気持ちが原因で、帰国後の生活がとても辛い状態で続いている人や、その家族がいたら、「起きてしまって当然の心の葛藤であること」と伝えてあげてください。そして、是非、優しい労りの言葉をかけてあげてください。これは誰もが経験するものであること、一人で悩んでしまわなくて良いこと。これを一緒に話せるような環境を作って欲しいと強く感じます。
クロスカルチャーコンサルタント・BUNKAIWA
参考:
Storti. C. (2003). The art of coming home. Intercultural Press Inc. Boston:MA.
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